虎の日本画 制作の備忘録

虎の日本画 制作の備忘録

(写真)「3頭の虎」日本画・令和四年。

 寅年を迎えるにあたりまして、前年の夏から準備をはじめました。自分自身らしい虎を描くための仕事の流れとして、まずは歴史上の画家が描いた虎の絵や彫刻を調べました。それらのどの虎とも異なる個性を作れるように思考を練りながらスケッチや図案を制作していきました。

 改めて感じますのは、今の時代はインターネットの画像検索があるのでとても便利になったなあということです。図書館に行く時間がある程度節約できます。美術館に行くときも的を絞ることができるので、私が学生だった頃よりも時間を短縮できますので、鉄を熱いうちに打ち易くなった気がしております。

以下、著作権の関係で画像が載せられないのですが、メモを記録しました。

 東南アジアの画家たちは虎を見たことがあるためか、とてもすばらしい虎の絵があります。中国の画家達もトラを見たことがるので、絵としてまとまりのある作品になったものが多いです。

 日本人は虎を見たことがなかったので、伝聞・想像力を使って描きました。おそらく中国人の描いた虎の絵をたたき台とし、猫を参考にして描いたようです。それは画家たちの個性がより現れる結果となり面白みがありました。彫刻に良いものが有り、左甚五郎作ともいわれる日光東照宮の「眠り猫」が私の作品のヒントのひとつとなりました。
 これは寝ているとも眠ったふりをしているとも言われております。眠っている説の場合は戦国時代が終わり平和の象徴としての解釈をしております。眠っているふりをしている説では、猫の手のひらが下を向いておりいつでも飛びかかれる。即ち徳川家康を守っているという説となっております。(いわゆる猫の香箱座りの場合、手のひらは上を向いているようです。)私は、まず作者が作者なりの世界観で作品を作ったため、どちらの説もその解説となりうると解釈いたしました。
 参考にした記事があります。こちらです。
左甚五郎と眠り猫
https://www.sankei.com/article/20210908-CJTJLLLV3ZKE5NP3YTLR7JAIKY/2/

 欧州では虎よりも獅子を描くことが伝統的だったようです。紋章としての獅子は人気だったようです。彫刻に良いものが有り1867年にランドシーアが作ったトラファルガー広場のライオンの後ろ足が良く、こちらも私の虎を描く際のヒントとなりました。実はランドシーアはロンドンの動物園でなくなったライオンを引き取りスケッチをしたそうなのですが、くる日もくる日もスケッチをしていたためライオンが腐食し始めたため、(私が気に入った)後ろ足は、猫の足を参考にして描いたのだそうです。これはとても面白い話だと感じました。
 参考にした記事があります。こちらです。
ランドシーアについて
https://art.japanesewriterinuk.com/article/lions-at-trafalgar-square.html

 別の日に動物園を訪れ観察しました。座っている時は足がどちらも左側(または右側)を向いてお母さん座りのようになる時間が長いのですが、動く態勢に入る直前に実際の猫(または、眠り猫・トラファルガー広場のライオン)のような形になります。この静のように見えて動という形にダブルミーニングの面白さを感じました。

 また虎の伝統的な彫刻を調べるために、京都府の鞍馬山と東京都の神楽坂の毘沙門天へ行きました。鞍馬寺には虎の狛虎(狛犬のかわり)があります。体は一般的な上半身を起こした形ですが、こちらの虎は思い切ったトラの模様の造形に意味の豊かさを感じられました。

 (上)鞍馬寺の虎 (下)毘沙門天の虎

 さて、これらの材料をもとに夏頃からスケッチを数百枚描きました。その中で私の個性として「座り虎」という形に行き着きました。顔は描くに連れて無駄を削ぎ落とし、自分なりの調和に近づいていきました。やがて着彩も試すうちに白虎(西の聖獣)の意味を知り、白虎となりました。

 その後、私の個性として必要と感じた「眼」の研究となりました。左甚五郎の眠り猫の眼から更に踏み込んでいくうちに、開いた眼が閉じた表現(笑顔にも見える)となりました。今の社会を表すちょうどよい表現のように思えました。柔和なアクビの眼にも見え、笑顔にも見える眼となります。静と動を備えた威厳のある体を抑えるのに相応しい眼だなと感じました。
 そうして一頭の虎が完成しました。

 その後ご注文をいただき3頭の虎を描きました。左の虎は如来と菩薩の視線をヒントに描きました。3世代の虎合わせるとどの方角もカバーできるように描いています。

参考にした記事があります。こちらです。

仏像とは?種類はいくつあるの? 仏像の魅力と鑑賞ポイントをわかりやすく紹介
https://intojapanwaraku.com/art/21958/

(写真)「3頭の虎」日本画・令和四年。額装した様子です。

 毎年干支の日本画制作に挑戦していきたいと思っております。丑年の日本画から始めたばかりですのでまだ2年目なのですが、1つずつ12年かけて十二支を描きたいと思っております。

 最後には十二支の作品をひとつの作品として描いてみたいです。

〈了〉

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